*例えばこんなハジメマシテ。その3です
*時間軸は2戦後
*王子が女王騎士長
*トーマは女王騎士
*2主は国王エンド
*しかも記憶喪失
以上が許せる方はどうぞ!
ハル。
それはこの国では一人の人物を連想させる。
過去の英雄の息子にして現デュナンの英雄。
新同盟軍軍主にして、若き国王。
始まりの紋章を宿した不老の王。
其は鬼人の如き強さを誇り、同時に聖母の如く慈愛に満ち、全てを守る強靭な盾となったと言う。
いきなり降ってきた少年が国王と同じ名前であるからといって、同一人物とみるのは早急と言わざるを得ないが、二人には確信があった。
この国の査察を始めて各地で内緒話のように聞いた国王の噂。
もともと一般人であった王は民に気さくで、宰相の目を盗んでは旅人の姿で街に現れるという。
それは帰路に着く途中のグリンヒルの学生だったり、カラヤからの商人だったり、果ては散り散りになった家族を探して流れて来たという少年を名乗っていたり、とそのレパートリーは止まることを知らない。
そのどれであっても、茶色い髪で少し小柄などこにでもいそうな気さくで明るい少年で、不思議と安心できるような雰囲気の持ち主だったと逢った者たちは口を揃える。
そう言えばどんな時も素手を晒さなかったが、そんな些細なことなど気にならなかったとも。
そして少年が現れる前後に、町から少し離れた森で必ず1頭のグリフォンが目撃されている。
背中に茶色い髪の少年を乗せたグリフォンが。
あんたたちも運が良ければそのうち逢えるだろうよ、と何処かの酒場で誰かが言っていた。
それを思い出しながら『ああ、確かに』とジンは納得した。
何かと気遣いが必要な王宮で育った自分が何の根拠もなく、敵ではないと認識したのも彼だったからではないかと。
ハルに気取られないように右手に意識を集中させる。
無意識に抑制してしまっているのか常人には気づけない程微かな紋章の気配を感じ取れるだけだが、その僅かにしては異様な気配に確信を持つ。
彼が国王・ハルであると。
トーマに頷いてみせると、ごくりと喉を鳴らす音が聞こえた。
当の本人はと言えば、呑気にフェザーと戯れている。
記憶がないからこうなのか、それともいつもこうなのか。
後者だと思ってしまうのは、目の前に王子のイメージを見事にぶち壊してくれた人間がいる所為か。
トーマはそう遠くはない過去に記憶を飛ばす。
現実逃避を図るトーマの頭をハル達から見えないように素早くはたいて現実に引きずり戻す。
即ち、こんなことで現実逃避する男にリムはやれないよ?である。
王子のイメージぶち壊しその1、もといファレナ名物、重過ぎる兄妹愛。
繊細な顔立ちからは想像もできない力ではたかれたトーマは、ともすれば突っ伏しそうになるのを気力だけでじっと堪える。
その様子をジンは満足気に見やると、おもむろにハルに問いかける。
「これからどうする?」
この先に待つであろう展開すらも楽しむように、頬笑みながら。