2王様エンド前提小話
「そうだ、約束をしようか」
何の?と視線で問いかければ、クツクツと楽しそうな忍び笑いが聞こえた。
「僕が一方的にする約束。望もうが望むまいが違えることのない約束を」
口の端をにやりと上げて、獰猛な瞳が獲物を捕らえようとするように静かに光る。
ぞわりと背が粟立つ。
あぁ、止められぬのだなと悟って御意にと頭を垂れた。
あれから何年が経ったか、ある日突然彼は消えた。
一方的な約束の通りに。
豪奢な部屋は片付けられ、整理された書類が机の上に纏めてあった。
期日は今日のものから向こう1年のものまで必要と思われるものはすべて揃っている。
あぁ、行ってしまったのだなと実感した。
ひとつだけ残された彼の私物が妙に切なくて、せめて挨拶くらいして行けといもしない相手に愚痴をこぼす。
書類の端が一様に染みがついているのに気がついてパラパラと捲ってみれば、染みで出来た猿がこちらに気づいて曲芸を披露してきた。
逆立ち、宙返り、皿回しと芸達者な猿が次々と演目を変え、最後にバイバイと言うように手を振って退場した。
まるでそれは彼自身のようで、これが彼なりの別れの挨拶なのだろうと呆れた。
「馬鹿者・・・」
彼に仕えてから口癖になってしまった悪態を声に出すと、ポツリと水が零れた。
仕えるべき主を失った。
言いようのない喪失感に天井を仰ぐ。
眉間を摘んで涙を堪え、主のいない大きな机に向き直る。
手にした書類を元の場所に戻し、最敬礼をとる。
深く深く頭を下げ、今はいない彼に最大限の敬意を示す。
どうか、彼の行く末に幸多からんことを
気がすむまで垂れていた体を起こし、伏せていた目を開けると、インク瓶の下に小さなメモが挿んであるのに気がついた。
折りたたまれたメモを広げると、そこには慣れ親しんだ彼の字で短い文が綴ってあった。
『ちょっと出かけてくる。長くても1年以内で帰ってくるから!』