*例えばこんなハジメマシテ。その3です
*王子とトーマが上司と部下で友人以上義兄弟未満
*時間軸は2戦後
以上を踏まえてどうぞ!
火打石、小型のナイフ、少量の塩と胡椒、多過ぎも少な過ぎもしない程度の金、それらが入っていた小振りのポーチ、くたびれてはいるが毛布代わりにもなりそうな少々上等なマント、そして、
「笛?」
少年がうーんと1人首を捻っている間に水面下で交わされたやり取りで、身につけているもの、所持品に手がかりがあるかもしれないとひとまずの結論を出した。
が、何ら身分、出身の分かるものは持っておらず、代わりに謎ばかりが増える。
恐ろしく旅慣れたと言うべきか、恐ろしく世間知らずだと言うべきか、まずそこで悩む。
極めつけは大事そうに首から下げていた笛である。
「なんか犬笛に似てるね」
「俺には犬笛そのものに見えるんだけど」
「吹いてみよっか?」
返事も待たずに少年が思いっきり吹いた。
が、音はしない。
「やっぱ犬笛?」
首を傾げる3人の耳に森の生き物が騒ぎ出す音とバサバサという羽音が届く。
それにつられて空を仰ぐと、1党のグリフォンが3人を目掛けて滑空をしていた。
つい反射でその場を離れるジンとトーマ。
その場で座り込んだままの少年に気づくと、はっと息をのむ。
危ない!と発したのはどちらか、少年はグリフォンの影に消えた。
トーマが手に馴染む愛剣をぐっと握りこみ駆け出す。
二歩目を踏み出そうとして、勢いが急激に落ちトーマの回りには戸惑った空気だけが残った。
グリフォンから小さいながらもクスクスと笑い声が辺りに響いた。
「あはははは、くすぐったいよ。やめろってば」
まるで猫のように頬を擦り合わせるグリフォンに、少年はやめろと言いながらも羽を梳いてやる。
取り越し苦労にトーマがガックリと肩を落とすと、ジンはそっと肩を叩いた。
「手がかりその1ができたね」
のん気な言い草に、トーマは額に手をやると今度は小さくため息をついた。
「で?」
たくさんの質問が込められた一文字を受け、少年は嬉しそうに答える。
「うん、フェザーが言うには僕の友だちみたい」
「フェザー?」
「グリフォンの名前」
「思い出したのか?」
「いんや、今教えてもらった」
「言葉が分かるの?」
「あー、なんとなくは」
「じゃあさ、自分の名前聞いてみたらどうだ?」
「あ、そっか」
すとんと納得すると、少年はグリフォンに向き直りしばらく多分会話していたかと思うと、すぐに振り返る。
「ハルって名前だって」
「ハル・・・・・」
記憶を失う前の友が傍にいるからか、幾分安心した顔でハルは笑う。
それとは対照的に何とも言えない顔で視線を交わすジンとトーマ。
まさかとは思いますが・・・
多分そのまさかだね
現実逃避をしたくなる頭をぎぎぎと動かし、もう一度ハルに視線を向ける。
笑顔でフェザーとじゃれる姿に『リムが見たらなんて言うだろうか』と遠い故郷にいる妹に思いをはせた。